153号 関西の詩誌自らを語る―未来へ向けて
153号 関西の詩誌自らを語る―未来へ向けて
- 有珠(ウショロ) 二篇 安水稔和
- すてねこ みちる
- じぶんはひとり みちる
- 明日を信じる者へ 上村多恵子
- れぞんでえとる 登り山泰至
- ぬくもり 蔭山辰子
- 歳月も 光も 藤谷恵一郎
- 流す 日野友子
- ほのかな灯(ともし)火(び) 山本なおこ
- ウラ ハラキン
- コトバ ハラキン
- 心の美術 ハラキン
- 心の実況 ハラキン
- 待つ夏 晴 静
- 朝の空 関 中子
- 境界線 竹野 滴
- 秘密 ―パントマイム― 吉田定一
- 今日 神田好能
- 無題 神田好能
- 絵馬(午年によせて) 藤原節子
- 壊れた万華鏡 藤原節子
- 4月 葉陶紅子
- 闇のかたち 葉陶紅子
- 微分積分 牛島富美二
- ありがとう 星ノ深千夜
- 生まれ落ちた場所 今井 豊
- もう聴きたくない 木村孝夫
- みんな泣いているよ~日本中の笑顔~ 中島(あたるしま)省吾
- 拝啓 首相どの 斉藤明典
- 光求めて 加納由将
- 引揚船 原 和子
- 冬 清沢桂太郎
- 君の言葉 青島江里
- 春のために 弘津 亨
- さようなら 佐古祐二
- 寒夜の別れ 青山 麗
- 鐘の鳴る町で 根本昌幸
- 立つ位置 斗沢テルオ
- 寺町 尾崎まこと
- 小詩篇「花屑」その5 梶谷忠大
- 箱 沙羅
水井(ワツカ シンブヰ)
水井に立ち寄り
水結ばんとすれば。
家(チセ)の窓より
老若が覗く。
小刀(ヒビラ)ひとつで
弓作(グウカ)る男たち。
笑い語らい
アツシ織るメノコたち。
*「シンブヰは穴てふ詞、ワツカシンブヰとは水の涌出る穴てふこと葉にて
水井といふ也」(菅江真澄「蝦夷廼天布利(えぞのてぶり)」天註)。
黒(アマム)百合(アンラコラ)
エドモのコタンから
メノコがふたり。
葛籠(サラネフ)から取り出す
黒百合の根。
エドモの海に咲く
花の色は黒。
移し植えれば
花の色変(ナ)ぬ。
*エドモ=室蘭。
*「黒(アマム)百合(アンラコラ)といふは、其山丹花(やまゆり)の根に、米の如きものあれば、しかいふ。
米をアマムといひ、アンラコラは百合といふ詞也」(同前天註)。
ひろいねこびとが
すてられねこをひろったが
ねこはひろわれてすぐ
またすてられた
すてられねこを
ひろいねこびとが
またひろったが
すぐにまた
すてねこした
だがまたすぐに
すてねこされたねこは
すてられねことして
ひろいねこびとにひろわれて
ひろわれねことなった
ひろいねこびとは
すてられねこをこよなくあいしていたが
すぐにすてねこして
すてられねこのきもちもわからなかったので
あいするひとには
ついにあいされなかった
ともだちは
じぶんではありません
じぶんのなかに
ともだちが
いるようなきがしても
ともだちはじぶんではありません
ともだちのゆめをみても
ともだちのきもちがわかっても
ともだちとじぶんが
くっついてうでずもうしていても
ともだちとじぶんは
わかれている
べつべつのにんげんです
もし
ともだちと じぶんのからだが
いれかわって
こころが
そのことにきがつかなくても
じぶんはじぶんだけ
ひとりです
じぶんがひとりであることは
すてきなことです
ふたりがともだちであるのと
おなじくらい
すてきなことです
神を信じる者でなかったとしても
永遠というものを
つかみとることができない者だとしても
何千億年も前の記憶を
未来に奏でる曲に託して
無念の涙を越えて
迷宮の露地に翻弄されることなく
明日を信じる者に
祈らずにいられない
それは
自然の理の中で
その暴走に突き落とされた世界でも
夜明とともに
大空に羽ばたく鳥たちの声を信じて
明日に歌い続ける中でこそ
視えてくる真実があることを
祈らずにはいられない
どんな過酷な条件でも
季節の流れを
光で受けとめ
木々に新しい芽をふきこみ
枝々に咲かせる明日の花に
祈らずにはいられない
遠くアンドロメダ星群まで続く
宇宙の蘇生
ブラックボックスからはぢけ出た因果として
大いなる意志を持っても
又持たなくても
時間と空間に
一瞬の透明な光を
求める明日に
祈らずにはいられない
神を信じる者でなかったとしても
闇の中から這い出し
明日を信じる者に
祈らずにはいられない
どうして水は
さらさら流れなきゃならない
どうして火は
ごうごう燃えなきゃならない
君の涙の乾かし方も知らないのに
どうして大地は
がんがん震えなきゃならない
どうして風は
びゅうびゅう鳥を運ばなきゃならない
どうして―
都市はひとびとの暮らしを成り立たせなきゃならない
血はどこまでも熱く動脈を走り続けなきゃならない
ことばはどこまでも迷走しなければならない
ある一点に行きつくまで
どうして――
だろう
僕は
僕自身が何者なのかも
まだ
わかってはいないのに
あの日の酒宴は
二人きりの コニャック
――ペチカ モエロヨ オハナシシマショ
記憶の彼方に押しやった光景
それでも
時々引っぱり出して
手の平のぬくもりで
舌に転がす
ピザはアンチョビーナ
ミニトマトで色どりのシーザー
発泡酒で
――乾杯‼
でもいいか
同じぬくもりに浸れるなら
歳月は駆けても駆けても
光とともに
ぼくを置いてきぼりにする
愛もまた
悲しみを孵化させていたかのごとく
あなたたちは遥かに立ち去る
千日が経ち また千日が経ち
飛び去らない悲しみの翼の翳に
愛はいくたびか
命に灯り
悲しみの翳を淡くする
歳月も
光も
置き去りにはできぬもの
わたしは流れていた
雨で水嵩を増した川の
水面(みなも)の下
水深中ほどを
時速5キロぐらいの速さで
頭を川下に
長い灰色のスカートと黄色いコートを水で膨らませ
白い靴下と黒い靴を履いたまま
にごった水の中を
うつぶせで
目を見開いて
水が 耳元で音をたてる
すべてが揺らめいて流れていく
どこかで見た
これは既視感がある 光景だ
川は流れる
とどめなく とどめなく とどめなく
わたしは
流したかったのだ
水に
わたしを 流したかった
小さなポケットのような
豆電球が一つ点っている
暗がりの家へ帰るのがいやだと言ったので
彼が部屋に点していったものだ
お膳の上には ささやかな夕食が用意されている
この時間だと実入りがいいと
彼はバイトに出かけていった
ひとりで食べるより帰るまで待っていよう
月の明りもない
暗い身に染みる寒い夜
彼の買ってくれたセーターを着込んだ
ふわふわな彼の愛に触れている
(長い歳月が私の胸に流れた…)
その年月の掌に
今も小さなポケットのような
愛おしい豆電球が一つ点っている
都市の名高いどぶ川に
ウラがあった
川沿いにならぶ
居酒屋やブティックやカフェの
ウラがあった
十一の顔をもつ像の
まウラに
暴悪に笑う顔があるごとく
真相はウラに剥き出される
ヒビが入った窓ガラス
食材を積みあげた窓辺
洗濯モノ
排水
ペンキが剥がれ落ちて
夢の剥片のように
川を流れていった
夢を叫びながら
ああ どんどん
叫びが遠ざかっていく
居酒屋やブティックやカフェの
オモテはキレイ
キレイなオモテは
ウラで排泄するしかない
だからどぶ川がある
排泄物は
古代から絶えず流れゆく
夢が流れゆく
愛欲が流れゆく
無明が流れゆく
さらには
祈りや瞑想の
毒までもが流れゆく
古代からあった
ウラ社会も流れゆく
流されまいとして流れゆく
こうしたオモテとウラの関係は
その後も三千年続いた
世界にコトバがあふれ
トゲトゲの種子となって
からだじゅうにくっついてきたので
瞑想者はたたき落とし
コトバを不立した
レトリックに見舞われ
レトリックに溺れて
ついに世界は
人生のようになってしまった
そして
あるいは
しかし
接続詞で世界は
ひとつになれる
かならず
ゆっくり
いささか
副詞で世界は
感情的にできる
それは人類がつくウソだと
オモテのウラはわかっていた
ウラはウラに潜んで黙して
コトバが破綻することは
紀元前が見抜いていた
狂った紀元後さえなければ
世界にコトバがあふれ
水墨になりすまして
島に見たてた石にも
難解に観念してきたので
瞑想者はふり払い
ふり払うこともふり払って
ナームふり払いつづけ
石として坐りつづけた
世界にコトバがあふれ
いやらしい粘液となって
円や正方形にくっついてきたので
宇宙が洗い落とし
幾何学的に抽象した
この世の赤いハートに
黒いペンキをぶちまけた
これを作品Aとした
題名は「心?」
そのときから造形作家は
心と言うとき
胸に手をやることをやめた
心は脳にあるとする科学者は
自分の脳を
メスで切り開いてみたが
どこにも無かった
ひょっとすると
脳のパーツ(赤いクルミのような?)ではなく
脳裏そのものではないのか
そこで造形作家は
脳を裏返して作品Bとした
題名は「脳の心?」
古代アーリア人が
忽然と現れ
すべての細胞に遍在すると告げた
そこで造形作家は
顕微鏡で細胞をしらべたが
ミトコンドリアのように
動く心はいなかった
すべての細胞?
それは私のことじゃないか!
ギャラリーの床に
直立不動し作品Cとした
題名は「私は心?」
あなたは俺といっしょにココにいる 俺はいまあなたを独占している (あくまで小説的に) 恋しいから俺はあなたをそうっと抱く これを受けいれて あなたは俺に抱かれる 心と心がそうっとくっついている 頭上の葉叢が風にかき鳴らされる音が 耳に入った あっ風だ 心もかき鳴らされて 俺の心があなたの心と 刹那数ミリ離れる あわてて音を意識から殺し と同時に筋肉に力が入り 俺はあなたを抱
きしめる これを受けいれて あなたは俺に抱きしめられるがままになっていると 感じるともなく感じていたら あなたは痛いとつぶやいた 口元は薄く薄くほほえんでいるが 細く開いたあなたの目は
俺を見ていなかった 同じく心もそっぽを向いた と俺は悲観する
あなたの心が俺の心と しだいに離れていく いや そうっと抱いたときも くっついてなんかいなかったのだ 砂ぼこりが口に入ったような思いにとらわれたとたん 一切のノイズが耳に入ってきた はるかどこかの島唄に 抱きしめても抱きしめても ほら すきま風が通るでしょ 抱かれても抱かれても ココにあたしはいない あたしを心の底からほしいなら なにもかも捨て 恋も捨てて あたしを抱いてくれないと という一節がある 地獄に堕ちても抱いてくれますか と続く あなたは俺といっしょに地獄には堕ちてくれないだろう ヘリの音 階下の住人の音 幼児の泣き声 頭上の葉叢が風にかき鳴らされる音 一切のノイズのなかで あなたは薄笑いながら上着に袖を通している もうはやくいなくなってくれ いやまた会いたい まだ終わったわけではない これほどに愛欲にとらわれやすい心の実況はどうどうめぐるからいったん終わる 続きがあるとしたら
降る雨じとじと
昨日も今日も
吹く風べたべた
昨日も今日も
沈む沈む
まだ沈む
咲く花活き活き
今日から明日へ
咲く色変化変化
今日から明日へ
浮き立つ浮き立つ
また浮き立つ
浮き立つ浮き立つ
浮き立つ心
梅雨真中
待つ夏見えて
何かと何かと違うものがあり
それらの上下があり
あたたかみの違いがあり
そこで生まれるってことは
たまらなくさびしいことなんだろう
どちらにもとどまれないし
滅亡と腐敗をたどるのがわかったときも
行かなくてはならない
風は生まれるのに
朝がいいなんてだれの思いつきだろう
ただひとつの経過を伝えるのに
流れる
叶えるでは 違いがあること
さみしかないか
さみしくないよ
風は生まれる
「ないか」と「ないよ」の一字違いでも
わたしがいればなおさらに
朝の空
「ないか」と「ないよ」は悲しいね
壊滅は壊滅ではない
なにもなくなったと定義されるこの場所に
菅原則之が生きていることである
〈なにも〉のなかに包摂されない身体の
たとえば舞って落ちつくす花弁の
来歴を踏みつぶす菅原則之の
前進も後退もおのれでしかないこの足の
ただつづくこの場所の生活にむけられる視線の
なにもないことの
このはじまり
境界線は線ではない
城壁と鉄条網すらなく
そして城壁と鉄条網が見えることである
際に立ちつくす日傘の
平野聡子の首の角度の
計測の先に落下する涙の
液体となって沁みつくす大地の
無音の代償に平野聡子が聞く菅原則之の胸の
実体にいつまでも触れにはゆかないことの
このはじまり
菅原則之は菅原則之にいない
境界線は線であろうはずなく
これこそが菅原則之の場所である
平野聡子よはるか先にあるという認識の
菅原則之の呻く胸の
発信源はこの城壁の建材のこのうちがわの
うずくまりの不可視の裡の
可視の場所にしかありえないこの拍動の
血流をさがしあてる者はついにないことの
このはじまり
だまって女の子が 男の子を前にして
人差し指で 自分の鼻の頭を指さしている
(「わたしね」って 言っているんだね)
そしてにっこりとほほ笑み
ぷくんと生まれたばかりのえくぼを指さしている
(わたし「可愛い?」って…)
すると男の子は 人差し指でおでこを抑えて
うなずいているような 考えこんでいるような
(「うん」「まあ」 「どうかな?」)
(子どもだって 痛く知っている――)
親しい友だちの間柄(あいだ)でも
尋ねたくないこと 言ってはいけないこと・・・
犯してはいけない自尊心(プライド)のあることを
ほら、恥ずかしそうに だまって
お互い 人差し指で
ちいさな胸をつつきあっている
微笑(え み)を浮かべながら 戯れながら
トマトのような頬(ほっぺ)をして
ことばにして言えない 大事な秘密のあることを
今日は亡くなった兄さんの
お誕生日なのだと想う
えっ 建国記念日か
二月十一日はいつも兄のために
ごちそうを作ると思っていた
母は無学だったと言うが、
私も無学だからと思うが、
我が家の祝事が一番大切
母にとって戦争で負けて
山の中へ行ってくらした日々
どんなにくやしい想いだったろう
今、母から学んだ言葉のかずかずが
私を助けてくれている
女にとって母の愛ほど
すばらしいものは無いと言える
みじかい みじかい
ほんのみじかい間
ほんのみじかい時間だった
幸せの時は去っても
心の中に残った嬉しい
想い出は あゝ
あゝ 想い出は消えない
みじかい時間なんて
えっ えっ
しゅんかんか……
想い出は心の中に
小さな板切れに描かれた
長いたてがみの俊馬よ
知っているだろうか
昔 おまえの仲間は
農家の働き手だった
田を耕し 荷物も人も運び
朝日も夕日も百姓と共に浴びて
暮らしていたことを
村に繁栄をもたらす神として
大きなおまえの像も建てられた
いつの時代だっただろう
おまえたちの仕事が
機械にとって変わり
仲間が次々と
村の中から姿を消していったのは
正月の神社の絵馬よ
知っておいておくれ
おまえの仲間が
働き者だったから
奉られることを
一日三〇品目の材料で
献立を作る良妻の顔
子供四人を名門私学へ入れた
賢母の顔
非行少年を立ち直らせた
熱血教師の顔
あなたは
右に回しても
左に回しても
見事な幾何学模様が
光っている
万華鏡だった
あなたは
六七歳の時
真冬の深夜
車を飛ばし
心筋梗塞で即死した
あなたの通夜の日
独り暮らしの
あなたのマンションに
残されていたのは
数箇所の
金融業者からの督促状
血相変えて
押しかけて来たのは
借用証書を握りしめた
友人たち
亡くなる
前の日まで
あなたの周りには
多くの人が集い
笑い声が絶えなかったのに
あなたの死で
ガラス細工の
万華鏡は壊された
霧の中2人で行こう 櫂を漕ぎ
アネモネの4月 棺を出でて
村人が 樹木のように美しく
魂のごと 裸の島へ
欠落の空の傷より 芽吹く木に
いつかはそよぐ 葉むらを思え
欠落の傷あとに彳つ 空の木に
登りてきっと ながむ永遠
ゆるやかに息接ぎつ 歩むぐるりに
小人らつどい 時空は曲がる
中空に裂けし 時間の白き肌
小人ら繕い 端裂(は ぎれ)と花やぐ
ゆるやかな歩みに 村の日は暮れて
永遠は在る あなたのそばに
目をすてて 耳すて口をすてされば
闇はかたちを 撓めるというや
唇吸いて われが言葉を飲みくだす
肉に耽(ふけ)りて 奪う生殺
そそり立つ茎の ま先の闇に堕つ
幾つの貌ぞ 毀(こぼ)てるがまま
わが肢体 白い円月背に彳てば
かたちは匂い 夜を切りとる
山ひとつ安く眠らせ わが肌の
ほてりの色は 朱夏のごときか
乳色のわれが肌(はだえ)は 闇の贄(にえ)
かたちなくして いのちあらずも
君が肩の 向こうに朝明(あさ け)たち初めて
われがかたちは いま生(あ)れなんとす
竹林が風に戦(そよ)ぐのは
風が竹林にありがとうと云うからで
雲が空に遊んでいるのは
空が雲に泳ぎを教わっているからで
雪が思い出すようにしきりに涙を流すのは
土がその思い出をかぎりなく吸いたいからで
で、
女が口紅をつけるのは
男に唇がないからである
だからある男などは唇の代わりに
三寸ばかりの舌先を出す
するとうっかり
その舌先に口紅をつける女がいる
時には男も寄ってきて
その舌先にオイルを塗りまくる
滑らかになった真っ赤な舌先に
乗っているのは透けて見える様々な葉脈
枯れて見える葉脈にでも
女は口紅をつけたがる
そんなわけで唇がない男は
女が唇を夕灯色(ゆう ひ いろ)に煌めかすと
ほんのり自分の影を浮き上がらせるから
男は初めて自分の瞼に感謝して
乾いた舌先を引っ込めてしまう
つまりは
風に竹、雲に空、女に口紅は
遥かな時世(とき よ)をのりこえて
ほら
あなたの傍らであなたを微分している
ああ、でも今日のような日には
空には大蛇が横たわり
竹林には凧(たこ)が何匹も絡んでいて
男の目の届かないところでは
女が明日のためにオイルを塗りまくって積分する
ありがとう
温かな日差しは
もう春ね
次の角まで走っていこう
信号を渡りきったら
振り向いてみよう
青い屋根に反射した太陽が見えた
ありがとう
この温もりは
もう春ね
ちょっとだけスキップしたなら
少女のように
歌いだす
ルルル ラララ フフフ
ありがとう
どこか一致しちゃう
私の世界と鼓動
歩いてゆこう
生まれ落ちる場所が選べるなら
悩む事はない
避けるのみだ
選べないから
運を天に任せる
全ては運命なのだ
定められた人生には
浮き沈みもある
どう転ぶかだ
努力したものが報われる
なんと耳触りの良い言葉
勝ったものが天に登り
負けた者は地に落ちる
生まれ落ちる場所が選べないから
生きるために悩む
世界が受け入れ
選べるとしたら
宿命は変えようもないが
運命は変えられる
定まらない人生にも
浮き沈みはある
必ず転ぶ
努力したとしても報われない
なんと現実的な言葉
勝ち負けは
簡単に決まる
生まれ落ちた場所は
この地球だ
夢と希望があるとすれば
この星の未来にかかっている
放射線量の数値を
いつも身にまとっているが
不要な装飾品だ
食べるときも 寝るときも
歩くときも
公園のベンチに座るときも
スーパーの食品売り場でも
コンビニで弁当買うときも
果物の皮を
ナイフで剥くときも
木に生る 梅や林檎や柿や梨などの
放射能測定器もあるが
この装飾品
身につけると
異様に気持ちが高ぶってくる
放射能は
いまだに隠れた場所ほど高濃度で
いたるところに落ちている
測定器を通して
「検査済」と
スタンプが押されても
収穫される その近くの
放射線量のモニタリングポストの
数値が気になる
水道水などは
疑心の標的だ
一人泣き叫んでも何も解決しないが
もう放射能という言葉は
聴きたくない
十年後二十年後先のことを
不安がっていては
今を生きてはいけない
そう思うことにした
これではいけないと
止める心も残っているが
まな板の上で食材を刻むときの
重苦しい音に
耐えられない
放射能汚染水問題が
新聞やテレビのニュースや
インターネットで
毎日のように取り上げられている
そのたびに不安度が上昇し
食卓が緊張する
夜の会話などは沈みがちで
暗い気持ちで
明日にバトンタッチしている
放射能という言葉は
もう聴きたくない
ひそひそ話なのだが
この頃は
そんな声が四方から聴こえてくる
放射線量の数値を自己管理する
この装飾品を身につけると
生活の全てが
縛られるような気持ちになってくる
放射能という言葉は
突き放しても
その辺りをぐるりと一周して
また戻ってくるから
もう手に負えない
被災地の笑顔
きっと貴重だよ
被災地の人を笑顔にするのも 笑顔にする人間もきっと神様に喜ばれている
被災地の人を笑顔にするのも
きっと人としたら最強な仕事だから神様に愛されているよ
生き残った被災地の男性はこれから人に勇気を与えていくかもしれない
やっぱり韓国スターよりも男の質は、人間から見たら男の質は高貴
神様がそうされる
生き残った被災地の女性は救いたいと想う異性みんなにぬくぬくと愛される
神姫
だって神様が許してくれるんだから
被災地は日本で最強の人間の愛あふれる場所
きっと神様も被災地の人を勇気付ける人は人の中の人だと知っているから人間として高貴
被災地は日本中のみんなに愛された場所だった
助け合いのにおい 祈りのプレイス みんな祈り届ける精神的上流階級人の場所
居心地良い世界中のみなに心配されている場所
日本中のみなに愛されて守られていることを感じて今は精神的のびのびとすくすくと
国家や人間に守られよう
神様も日本中の困った人間の心を何かしら優しい心に変えてみたいと、みんなみんな
泣いてるけどみんなみんな遠くの地域の人も名古屋も大阪も東京もみんなみんな
笑顔を求めている
被災地の笑顔
きっと貴重だよ
みんなみんな悲しいけど、東北のためにもうみんな泣いているから
涙はもう出ないかもしれないから、
水不足でみんな世界中が困るよ
みんな助けるから
拝啓 首相どの
ボリス・ヴィアンに倣って
僕も手紙を書きたいのです
いえ そんなに長くはありません
あなたは積極的平和主義と称して
日本を戦争のできる国にしようと
がんばっていますね
戦死したわたしたちを祀るため
あなたはせっせとWar Shrineに
お参りしているというじゃありませんか
しかし 僕は戦争に行きたくありません
あ 僕のようなおいぼれに
招集令状は出しませんか
でも 僕の子どもや孫
未来多い若者には?
みんなこぞって 嫌だと言っています
人を殺したくありません もちろん
殺されたくもありません
震災・津波・台風・洪水などに乗じ
近く想定される大地震への警報を利用して
緊急に国民を総動員するしくみを
作り上げようとしていますね
これにマスメディアを加担させ
3・11復興に名を借りた「花は咲く」
サブリミナルな効果も狙っている
真実を見抜く眼をもち
表現する勇気をもった作家が
「気持ち悪い」と表現したように
追伸:手紙なのでここも読んでください
ボリス・ヴィアン Le déserteur(脱走兵)は
ここでは兵役拒否者と言った方が合いますね
それから War Shrineは
アメリカのメディアの用語で
僕の発明ではありませんので 念のため
どこかで
自分に苛立つ
自分がいて
許す自分がいる
四十年の
長い
ひずみは
醜い自分を
作り出す
日頃は
理性の蓋で隠れている顔は
なにかの拍子に
蓋があき
自分にも
周りのものにさえ
牙を剥き
引っ掻いていく
遠い日
自己なんて
なかったのに
自分を見つけた時
縛られた
自己に気がついて
頭を掻き毟る
思考が一旦崩壊していく
立て直す日々は
真っ暗
ゆっくりと足を進める
一寸先は
浮遊機雷に触れて
地獄の海に
投げ出されるかもしれない
引揚船のなかで
それでも こどもたちは
笑っていた
リバティの船底に
大漁鰯のように 詰めこまれ
電波探知機を頼りに
漂うような 航海が長引く
灼けつくような 渇きと 飢えを
僅かの水と 乾パンで癒しながら
それでも こどもたちは
笑うことを見つけて 笑っていた
東支那海の三角波に
船は 不気味な悲鳴を上げて
巨大なシーソーのように
人間たちの かたまりを
右から 左
左から 右へと
容赦なく 叩きつけていたが
だれかの頭が
だれかの胸板に 乗り上げ
だれかの脚が
だれかの脇腹を 蹴りつけたといっては
青ざめ 震える大人たちのあいだで
はじけるように 笑っていた
もみぢ葉が
おもて見せ
うらをも見せて
散る中を
冬が
足早に
やってきた
良寛さんの句に
うらを見せおもてを見せて散るもみぢ
がある
とてつもない夜の長さが
待ちわびた朝の透明にかわる
呼び覚ましたのは記憶の中の君
とてつもない夜の長さがいつも
古びた窓枠を震えさせていた
窓の向こうに映る冬枯れの森
凍える木々に降りてくる
穏やかな晴天の朝のぬくもり
影と影との空虚にまでも
与えてくれる光の愛よ
愛おしいという言葉だけでは
埋めつくすことのできない
猫背な背中ごと包んでくれる
淡い金色の陽ざしの輪
もう会えない遠くに生きる
眩しい言葉の中の君よ
僕の失望の闇に降りてくれた
いつか朝まで語り合った日の
君の陽ざしのような声が
重なる闇に折れそうになる
僕の両手を支えてくれた
冬空の下に張り巡る
裸の枝々に秘められた
見えない春の芽生えのように
君が残してくれた言葉を
日々のふところに手招きながら
明日に結ばれる時の蕾を
繰り返し開き続けたい
朝一番の光に生きる木立に
埋めつくされた言葉の森
さざめき合う透明な小鳥の群れ
どんなに孤独な時も
どんなに不安な時も
雲より遠い晴天の高みから
腰を下ろしてくれる君の言葉
未来のずっと向こうまで
決して息絶えることのない
眩しい君の言葉が此処にあればいい
枕の下に 摘んだ草花を束ねて眠ると
夢のなかで 未来の夫に出会える―
教えてくれたのは 背中のまがった祖母だ
だから 大切に摘んだしろい花の束を
枕の下において眠る日は わくわくする
窓枠がきしむ音をたてる嵐の夜であっても
夢の遠いところから
春の風がふいてきて
日ざしをあびて立っているおとこの子は
わたしの未来の夫だ
かれもまた 夜ごとにみる夢のなかで
わたしと出会う だろうか
でも おとこの子は 花など摘まないから
どんな魔法で 未来の妻と出会うのかしら
名前をもたない未来の夫よ
夢の外でわたしたちは決して出会えない
出会えないまま齢をとり
あなたの顔も忘れたわたしは 嵐の夜
おさない孫娘たちに 眠るときは
枕の下に摘んだ花の束をおくのよ
と そっとささやくだろう
広い野の原を
自転車に乗って走る
走る
両の脚を広げて
ジュンは
風
目をつむると
心地よい
ワイン色と薔薇の香りがする物語の
主人公になって
地球さん
こんにちは
そして
冬の闇に立ち上がる紅蓮の柱
それはこの世のものと思えないほど美しかった
寒風に煽られる巨大な炎の勢いは凄まじく
消防車の放水などまるで効果がない
沈みゆく町で 廃業しつつあった老舗旅館
大きな音をたてて部材が落ちると
熱風が起こり 無数の火の粉が舞いあがる
集まった近所の人たちは食い入るように見つめ
どの顔も深く刻まれた皺が見えるまでに紅く
工場が去り 商店が閉まり
衰退した町の 最後の姿を見るかのように
みんな言葉を失っている
さっきの轟音よりもさらに大きな音をたて
今また三階の一角が大きく崩れ落ちていく
大量の火の粉が澄み切った夜空に吸い込まれていく
その様子はやはり 美しいとしか言いようがない
「これでいいのよ 私を縛ってきた家からも
町からも そしてあなたからも逃れられるわ」
黒いコート姿で駆け付けた中年男のそばで
黙ったままだった和装の女将が口を開いた
その横顔は 不思議に凛として
まるで悪い憑物が落ちたかのようだ
頬を照らす赤い炎は
彼女そのもののように妖しく
寂れる運命を持った町に生まれ
病死した父から宿を受け継ぎ
自らの夢も 恋も成就できなかった
孤独な女の熱の塊だった
男はついに最後の最後まで
言葉を見つけられないまま
ただ見つめているほかなかった
脆く 激しく燃え落ちる女の日々を
午後六時の鐘が鳴る。
町の時計台の鐘が鳴る。
そろそろあの人の帰ってくる時間だわ
急いで夕飯の支度をしなくちゃ
これでもわたしも忙しいんだから。
この町へきて二年と少し
夕暮れが美しくて
田舎町にしてはエキゾチックで
なんだかわたし幸せなんだ。
あの人はこの町の生まれだから
どんなふうに思っているか知らないけれど
あの人と出逢って
あの人と暮らして
これ以上の贅沢はないわ。
もう少ししたら
わたしも働きに出る。
あの人にばかり甘えてはいられない
きちんとわたしも仕事を持って
働かなくては――
出来るのは若いうちだけだから
玄関の方で音がする。
あの人が帰ってきたんだわ
お帰り――
あの人は少し気取って
只今、と言う。
あの人が着替えをしている合間に
ほんのちょっぴりの時間
暗くなった
町を眺める。
やっぱりわたし幸せなんだ。
この町に暮らして。
故 沢田教一よ――
確かに君はキャパにも勝る戦火の慟哭を
捉えてはいるだろう
確かに君のヒューマンな眼は名誉ある賞に
値もするだろう
それでも俺にはどうしても払拭できない違和感が
纏わりつくのだ
君はいつも どこに立っていたのだ
ライカM―3を手に川を渡る母子を撮った瞬間(と き)
66年2月21日南ベトナムダンビンで
半死の解放戦線戦士を撮った瞬間
誰からの弾を避け誰に守られ シャッターを切っていたのだ
自分の立っている位置に
(豊かな水田にくい込んだキャタピラの跡に)
(命乞いする解放戦線容疑者が向けた眼の前で)
微塵の疑念も抱かなかったか
俺は――君の写真集を凝視(み つ)める俺の眼が
君の立っている位置だと解したとき――
(M16自動小銃が睨む光景)
慄然としたのだ
*講談社刊・沢田教一ベトナム写真集を手にして
米のとき汁に
母のようなものを尋ね
寺町の路地に迷い込むと
それぞれの曲がり角には
浅黄色の幟がはためいていた
ひび割れたガラス窓に
丸い絆創膏のはってある煙草屋が
芝居小屋のようにぬっとあって
後ろの方で
拍手もパラパラ聞こえるもんだから
下手なセリフで
「ハイライト、一つ下さい」
店子のお婆さんが
「この坂を登ると赤いお宮で そこが
いわゆる 気が狂う 入り口だ」
とかなんとか
磯の岩に張り付く富士壺の奥
つぶれた片目が僕をにらんだ
折り返せ
お前の親切はほんとうは
こころの病だ
つまりお前は
大切にされたかったような
赤ん坊
だあ、とさあ
「実は飢えてるだろう」
と、奥の間に案内され
出てきたひ孫の巫女さんが
「お前様はね、こんなの見たさに生まれてきたのに違いない」
余興の逆立ちで
ちょきのように出したのは
あんまりな美しい神殿の
二本柱のエンタシス
真白な脛とふくらはぎ
僕は笑うところを泣いてしまった
いつものことさ
苦いハイライトをくゆらせて
たなびく紫の向こう
たとえ狂ったとしても
これだけは永遠覚えておこうと
ふーふー息をきらしている
清らかな白痴の娘の逆さの
がんばってる顔を
米のとき汁に刺青する
ここは折り返し
昭和の寺町の路地裏
ここは折り返し
寂しき実
もう疾うに裸木になつて
吹きさらされてきた花梨
その枝の股に
花梨の実がひとつ
すでに柄は捥ぎとれて
とどまつてゐる
椿の花の莟はまだちひさい
春浅き
野辺の道に
六地蔵の赤い前垂れ
かすかな水音
冬落暉のやうな夕日
お神籤
参道に立ち並ぶ楓の裸木
枝枝には芥子粒ほどの葉芽がめぶいてゐる
その中のひともとに
白い紙の折目もくつきりと
ふたつのお神籤が結ばれてゐる
風はまだ冷たい
青森のりんご
駅前の路上をパン屋へ自転車を走らせる
「あおもりのりんご」といふ呼び声が耳にとまる
「かうてください」と声が追つかけてくる
パン屋での買い物をすませての帰り路
小型ワゴン車の前に止まる
男女三人の若者が商つてゐた
初老の男に何かいいことがあつたのか
気前よろしく袋いつぱいの青森のりんごを買うた
黄昏の駅前道路をりんごを乗せた銀輪を走らせる
甘い甘い香りをまきちらしながら
西行終焉の寺・弘川寺
西行のおくつきどころ冬桜
大根のいきほふいのち寺の畑
凩の吹きまく岡に歌聖の碑
散りのこる葉の騒騒と庵跡
色に寂ぶ西行桜の冬もみぢ
裸木になりてもその名さくら坂
わたしのなかにあるちいさな箱には
いろんなものが詰まっている
鉱石や食虫植物や天体図鑑
または出しそびれた手紙
役に立たないと断りもなく
ある日それらは母に捨てられてしまったけど
わたしという箱だってそんなもので出来ていた
どんな高価な宝石より光っていた
たいせつな玉虫の羽根
どんなに大きくなっても
大人の顔をして生きていても
わたしのなかにはちいさな箱があって
時折カタカタと音をたてる
あいかわらず役に立たないものばかりで