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174号 ユーレイ・ghost

174号 ユーレイ・ghost

三つの池   働 淳



「ツガニの伝説」という話がある
むかし大蛇が村で暴れていた
ウシや馬をひと呑みにするほど大きなヘビだ
そのうち大蛇は玉姫という姫様を襲おうとする
そこにツガニが現れて大蛇とツガニは争った
カニが二つのハサミで切ると
大蛇は三つの体に分かれ
のたうつ体が三つの池となり
その村を三池と呼ぶようになった

三池炭鉱のあった大牟田の
街の東に三池山という山がある
その山頂には今でも三つの池があり
池の水は地下深く
有明海の海とつながっているという

夏になると三池の街は
「大蛇山まつり」で賑わう
頭と尻尾の間の体の部分は
お囃子が乗った山車となり
笛や太鼓や半鐘の音を響かせて
大蛇は火を吹きながら街を練り歩く
かつて会社の合理化に反対して三池争議があった
組合も二つに分かれて
労働者同士の争いも激しくなった
そんな頃に「大蛇山まつり」は始まった
まつりの間は争いもおさまり
人々は掛け声をあげて踊り
子どもたちを大蛇の口の中に入れ
「かませ」と言って無病息災を祈った
次の年、大きな炭塵爆発が起こり
五百人近い死者と
八百人を超える一酸化炭素中毒患者
爆発の煙は龍のように大蛇のように
大空へと昇って行った

あの爆発から半世紀以上がたち
炭鉱も閉山して二二年
今も入院しているあの炭鉱マンたち
記憶はあの時をめぐっているが
町からは炭鉱の足跡が次々に消えていく

そう、大蛇はツガニのハサミで切られ
三つの池になって有明海とつながった
三池の始まりは、むかし昔のことだった

地震速報   村田 譲



ひとくちカセットコンロが
田の字にならんで
そのうえに鎮座まします大やかん
全域すべてブラックアウトになろうとも
いかにも土曜日曜の休日出勤は
カップヌードルすすりながら
臨時ニュースを流し続けていたんですよ、的な
雰囲気かもしだし

結局丸半日が停電、すべて山のごとしで
約半数の地域が復旧するのにさえ
三十時間かかったというけれど
それでわざわざ月曜の昼すぎに
まだ片づけ終わっていないっていう
このアピール感こそが
いかにもテレビ局らしくて

ただどちらにしてもその横に
肝心のヌードルの容器は
ならべておいてくださいな
総務部の備品だろうが善意の現物支給だろうが
どちらであろうとも頑張りました
の気分をつくろって
是非に飾っておくべきです
そうじゃないと広告にならないです、って
いつクライアントが
来局するかもしれないしさ
気にしすぎだとしても
それを愛おしいと抱擁すべきなのか
あまりに激しい自己主張であると叱責するべきか
まあ、提供スポンサーの商品も
しっかり揃えているわけだし・・・・

え、そんな指摘が
うわぅお
それはさすがに
逃げ道ないのはおんなじだけれど
大丈夫かぁ、の
震度六強から
ここはちまっと引き上げとくかぁ

陽のあたる部屋   志田 恵



陽のあたる明るい部屋で
母親は娼婦だと聞かされた

裁判所の一室 向かいあう
清潔そうな男性の肩書きは知らない
失踪宣告の申立てをして数ヶ月
面談の要請に応じて訪れた部屋
申立書は人から人の手に渡り
手続きに則って母親の足跡が調べられた

失踪後 二度生存が確認できました
いずれも売春防止法違反で検挙された時です
それ以降は確認できておらず
一年後には失踪宣告が成立します

見知らぬ人が告げる言葉が
向かい合って座る私の周りを
ふわふわと舞う

私は 笑い出しそうになる
もう 顔さえ思い出せないのに
あなたほど
私を粉々にできる人はいない
私は 笑い出しそうになる
あなたが捨てて振り向くこともない絆を
鎖のようにまとってもがく
私は 何て滑稽だろう
断ち切ろうとして自らをずたずたにする
私は 何て間抜けだろう

陽のあたる明るい部屋で
淡々と告げながら けれど最後に
しっかりと生きてくださいと言った
陽のあたる場所が似合う人と
向かい合って 凍えた心から
汚れた血が滲みだすのを
見つめてた

鏡台   平野鈴子



髪を梳(くしけず)り
眉を引き
紅をさす
短い髪や長い髪
ウェーブやカールを楽しんだ日々
この一面に姿を映し
何十年女を磨いたであろう
伯母からの結婚祝の自慢の桑の木の鏡台

引揚げの田舎暮しの仮住い
戦後の氷も薬もない時代
風邪から脳症になり
抱きしめるしかすべがなく
立て続けに幼い二人の娘を失った

一日を終えた夜半の合わせ鏡が哀しい
星になった子供達への情念の所作なのか
丹念に針を運んだ
銘仙の秋海棠(しゅうかいどう)の鏡掛け
重厚さを増した色あいになった鏡台は
女の人生の苦節を共にし
米寿で幕を閉じた

青唐辛子味噌   平野鈴子



ゴム手袋をつけず
うかつにも青唐辛子を素手で切り
目に触れようものなら
その辛味の威力に
顔がゆがむほどの憂目をみる

油で炒めれば咳込んで涙も動員となる
赤味噌・白味噌・味淋・酒・砂糖・白胡麻入れて
ツヤがでるまで練りあげる

麻婆豆腐・田楽・スティック野菜との相性は
格別の味
青唐辛子の香りも隠し味となる

酷暑の季節の味の存立
喉元過ぎると更に辛さは加速し
夏一番のやみつきの旨味となる
冬の鍋の薬味にも影武者となり粋な味を楽しませてくれる

夏椿   平野鈴子



火照るこころに
古刹の土塀の上から
白い清楚な夏椿が
迎え入れてくれた
空は青く鳥のさえずりが心地よい
いつも空白だった数字が書き込まれていた
示唆なのか
私は少しの笑みを浮かべた
足許には雫をたっぷりたくわえた苔が一面に
緑の広がりを見せている
神秘な空間
知らせた事でのあやまちを
後悔させまいと心で抑え
あたりの静寂が胸に迫ってくる
白南風(しらはえ)が頬を通りすぎ
私淑の人は斑模様に輝いて見える

ランナー   左子真由美



バッタが並んで
夕陽を見てる

海の底では
岩影でエイが身を翻す

あなたのノートが
文字であふれ

いっしんに走っていた誰かが
風のテープを切った

人知れず
宇宙の片隅で始まろうとするもの

地球という一冊の本の
次の頁を開くために

真っ暗な闇のなかを
ひたすらに走るものがいる

鳥への挨拶   ジャック・プレヴェール/左子真由美 訳



僕はきみに挨拶を送る
むかし僕が知っていた
漆黒の水のかけすよ
妖精の鳥
火の鳥 街の鳥
人足の鳥 子供の鳥 狂った鳥
僕は挨拶する
おどけた鳥
よく笑う鳥
君の名誉に
僕はもえ上がり憔悴する
花火のように
骨も身もまるっきし
僕がまだ子供だったころ
おまえはす早く通り過ぎた
風にまう葉の間を笑いながら
パリ、サン・シュルピス広場の
市役所の階段の上を
僕は挨拶する
おどけた鳥
とても幸福できれいな鳥
自由の鳥
平等の鳥
兄弟の鳥
持って生まれた幸せの鳥
僕は挨拶し思い出すんだ
一番美しかった時間を
僕は挨拶しよう優しさの鳥に
初めての愛撫の鳥
僕は決して忘れやしない
塔の上高くとまっていた時に
おまえが見せたほほえみを
華々しいユーモアの鳥
羽で合図しながら
おまえはウィンクした
カーカー叫ぶモラルの鳥
人間らしいあわれな鳥
人間らしくないあわれな鳥
サン・シュルピスの緑の大がらす
地獄の悲しみの鳥よ
天国の悲しみの鳥よ
おまえは建物のまわりをせかせかと動きまわっているが
足場のかげにはかくされている
愛に目をくらまされた若者の前に
コルセットを半ば開いた娘
僕は挨拶を送る
ぐうたらな鳥に
惚れっぼい若者の鳥に
挨拶を送る
雄々しい鳥
街の鳥
僕は挨拶を送る
決して来ない鳥
郊外の鳥
グロ・キャィユの鳥
プチ・シャンの鳥
アルの鳥 イノサンの鳥
挨拶を送る
ブラン・マントーの鳥
シシリーの鳥
地下労働者の鳥
下水掃除夫の鳥
炭焼人の くず屋の鳥よ
ロジエ街の帽子屋の鳥よ
僕は挨拶する
最初の真実の鳥
贈った言葉の鳥
大事に守られた秘密の鳥
挨拶を送る
舗道の鳥
プロレタリアの鳥
5月1日の鳥
僕は挨拶を送る
市民の鳥
建物の鳥
溶鉱炉の鳥 生きている人間の鳥よ
挨拶しよう
家政婦の鳥
雪だるまの鳥
冬の太陽の鳥
捨て子の鳥
ケー・オー・フルールの鳥 犬の床屋の鳥
僕は挨拶を送る
ジプシーの鳥
ろくでなしの鳥
空飛ぶ地下鉄の鳥
挨拶を送る
洒落の鳥
わるふざけの鳥
殴りっこする鳥
僕は挨拶を送る
禁じられた楽しみの鳥
貧乏な 食うや食わずの鳥
未婚の母の鳥 公園の鳥
つかのまの愛の鳥 娼婦の鳥
挨拶を送る
休暇をもらった兵隊の鳥
召集に応じない鳥
どぶの鳥 貧民窟の鳥
挨拶を送る
病院の鳥
婦人養老院の鳥
産院の鳥
鐘の鳥
惨めな鳥
停電の鳥
僕は挨拶を送ろう
力強いフェニックスよ
僕は名付ける おまえを
鳥達の真の共和国の大統領と
そして僕は前もって贈り物をしよう
僕の生命の葉巻を
僕が死んだ時
おまえの友達であった僕の
灰の中から
再びおまえが
よみがえるために。




         ジャック・プレヴェール
              第一詩集『Paroles』より

尾道にて   水崎野里子



尾道の海はまぶしくそこにあり
船にドックに賑はふ港

駅近く商店街の細き路地
入れば奥に芙美子の家あり

二階上り二間なる空間われ歩む
幼き芙美子の暮らしの影射す

ハイカラのギャラリー中に詩集見ゆ
かつて生きたる女の声立つ

尾道で長く芙美子は慕はれし
負けずの放浪わが胸いのち

街中で古着の銘仙着物買ふ
安きが嬉し赤紫で

銘仙の赤き着物をいざや着て
放浪せむかわれも女ぞ

花の命は短くもその影長くわれにあり
戦ふ人生負けずひとの世

いい日だな   水崎野里子



いい日だな
今日は
旅に出よう

水鶏(くいな)も啼き
黄色い花も
咲いているだろう

友も元気でいるだろう
母親は子どもを抱き
日向ぼっこをしているだろう

雲はゆっくりと拡がり
田んぼや緑の森は
山々に護られてあるだろう

おいしいものがあるだろう
友と食べよう
ひとりでもいい

ゆ とり   根本昌幸



ゆ とりという
鳥がいるという
どんな鳥なんだろう。
まだ おれは見たことはない。
もしかしたら
おれの家の裏薮で
せわしく鳴く
あの鳥のことかもしれないが。
おれは ゆ とりという
鳥が住んでいるものと思っていたのだ。
悠悠と暮らせるものと思っていた。
ところがだよ。
ある日突然
大地震が起きた。
追いかけるように
セシウムの雨が降った。
そしておれは病気になった。
ゆ とりはどこかへ
飛んでいった。
おれを捨てて。
おれから ゆ とりという
鳥はいなくなったのだ。
こういうことって
いつの時代にもあるんだよ。
気づかなければいけない。
自分が自分に。
いなくなるということ。
逃げていくということに。
動物はもちろんのこと
人というものも。

余白   関 中子



ことばのない 余白を
埋めようとする風
だかれたくなり
泣き叫んだりしたくなる
ひずみをひらり削り
自分をだきしめる

道のないところを
走ってきた血があふれ
対向者がやって来る前に
すばやく
窪地をつくり
広場をつくり

あしたはもうここに来ない
ことばのない 余白
思いだしたように
眼は見開いて滑り台をおりる
そんな時 わたしが少しわかってくる

遠雷ひとつ   関 中子



遠いどこか
手をとめず本を片づける
すると雨 蕭々

やがて夏木立 かがやき
伸びをする
小鳥 飛び歩く

冬   木村孝夫



一文字がきりっとしている
その背中に乗って
寒さがどこからともなくやってきた

防潮堤に立っている
風が頬を打つ
海岸線に向かう波は
一波、二波、三波と途切れることはない

ここの村落は津波で大きな被害を受けた
高台へと移転したから
かさ上げした大地は根付くことに
一生懸命だ

二メートル高さを増やした防潮堤
その足下に海岸線の砂が堆積してきている
長く続く海岸線を全て書き換えたから
潮の流れが変わっているのだ
堆積した砂が海底を押し上げて
増やした高さが
三年もしないのに消えかかっている

この防潮堤で津波を防ぐことができるのか
簡単な計算式で
すぐに分かる
税金の投入額を叩きたくなる

夕陽が水平線に沈もうとしている
灯台は灯りをゆっくりと灯した
冬の風景が静かに波打ち際に寄ってくる
心の平安のひとときだ

  *

この海の魚は
まだ危険だという人がいる
水揚げ時に放射線量の検査をしているのだが
風評被害が
どこからともなくやってくる

漁師が漁師でなくなったとき
近海漁の小さな舟は大きな声で泣いた
今も、その声は防潮堤を乗り越えていく
防潮堤に立つ足下がふらつく

あれから八年目になろうとしている
無慈悲な視線や言葉が被災地には落ちている
一冊の詩集では語りつくせない
二冊の詩集でもまだ語りつくせない

海にいる魚よ
魚のいる海よ
そこに放射性物質トリチウムが放出される
「海洋放出」という名前で

新たな風評被害の心配はないのか
また漁師が漁師でなくなる人がでてくる
あの小さな舟の泣く声は
もう聞きたくない

防潮堤に立っている
冬の風が頬を打つ
海岸線に向かう波は
一波、二波、三波と途切れることはない

近所の親しいひとからお菓子をもらった
おいしくいただき 品質表示を見ていた娘が
「お母さん これカロリー高いね!」

血圧に敏感な連れ合いはすぐに反応
「お父さん これからお菓子 半分コね!」
「えーっ? そんな殺生な!」

頭に浮かんだのは ミュンヘン駐在時のこと
秘書が有給休暇をとった その日 急に
報告書を作らなければならなくなった

社長秘書にタイプを頼もう
今日社長は 一日出張だったね
彼女は気持ちよく引き受けてくれた

お礼に街へ出てケーキを買って 社長室へ行くと 
「ふだんから甘いものに気をつけているのに
 私を太らせて殺す気?」とすごい剣幕

  すごすごと部室へ戻り 同僚たちと
  分け合って 楽しく食べました




          *この詩は2019年5月、
           朗読文化の会・あいで
           朗読したものを修正した

違う自分   加納由将



昨日
ボーリングで車椅子から
宙吊りになった
ストライクをとった
瞬間
嬉しさに跳ね上がり
バランスを失って
ひじ置きを乗り越えて
横胸に
痛さを感じたが
今までは
ボールリターンの横で見るだけだった

ただ
友達がストライクをとれば
ハイタッチ
嘘のハイタッチ
からっぽの笑顔
同じ事が今できている
そのまま実感
今日呼吸すると
動くと
痛みが来るが
その度に
あの時とはまるで違う自分だった

後日CTをとると肋骨にひびがはいっていた

繭と満月   葉陶紅子



繭の中眠るものらは 満月に
照らされ 記憶喪失になる

満月の夜に 裸女たちは言祝ぎ集う
楽人奏で 妖精は舞う

繭破り出でしものらは 国籍も
係累もなき 透明人間

満月に トルソのごとく彳(た)つ裸女の
乳房を吸いて 生い育つもの

兎穴転がり落ちて ワープする
媼たちまち 少女に戻る

死してなお片割れを産み 宇宙(コスモス)の
粒子をまとい 万有になる

満月の 帝国に棲むものたちは
境の膜を 透かし飛び交う

DNA   葉陶紅子



肉(しし)を脱ぎ 裸線(らせん)となって可視化する
つなぐいのちの 不死のかたちは

先つ世のわれ母にして 後の世の
われ娘なり 同じ裸線の

万象に 裸線の鳥は変化(へんげ)する
空海草木 虫花石に

愛(かな)しきは いぶせき熱き肉の息
裸線に被る われが重みよ

褄(つま)めくり 紅絹(もみ)を露わにするみ手に
汗ばむ肉の 熱き宵なり

わが乳房(ちち)を吸い わが子袋を衝きて
嘉(よみ)せよいのち ひと夜のいのち

枝撓(たわ)め 飛ぶ鳥の影よぎる膚
朝の光に 生(あ)れしいのちよ

仙台の都会の女の子   中島(あたるしま)省吾



今日は未希ちゃんは
仙石線快速に乗っています
ああ、仙台駅
ああ、みずき君
みずき君は石巻で
水産加工所で働くフリーターです
未希ちゃんはいっぱい遊びたい女の子

今日は未希ちゃんは
仙山線快速に乗っています
愛子(あやし)駅でゆうと君が待っています
ああ、愛子駅
ああ、ゆうと君
ゆうと君は愛子駅の駅員さんです
こっそり、昼休みに
ごちゃごちゃ逢います
お弁当を作って二人で食べます
未希ちゃんはいっぱい遊びたい女の子

今日は未希ちゃんは
東北本線快速に乗っています
小牛田駅にけんと君の家があります
けんと君の家に泊まって遊びます
雪がぽつりぽつりと舞っています
ああ、小牛田駅
ああ、けんと君
けんと君は
東北大学の大学生です
未希ちゃんは
趣味のネットで出逢いました
未希ちゃんはいっぱい遊びたい女の子

今日は未希ちゃんは
常磐線快速に乗っています
原ノ町駅の駅前にとも君の家があります
快速どころか鉄道が途中の浪江駅で
途切れています
その先には
人間は近づいたらダメなようです
ああ、原ノ町駅
ああ、とも君
とも君と一緒に
ネットでイチャイチャしてる投稿を
わざと魅せつけて
大好きなみずき君を
嫉妬させて
ごちゃごちゃ
みずき君を前に進ませようと
同時に
いいねをいっぱい得ようと
とも君といたずらに
談合させる予定です
未希ちゃんはいっぱい遊びたい女の子

今日は未希ちゃんは
東北新幹線
青森方面
仙台駅の新幹線ホームにいます
ネットで知り合った
盛岡のゆうま君と
遊ぶためです
仙台駅ホームの
駅弁売りの
無精ひげの
鉢巻をした
おっちゃんが
「ねえちゃん、可愛いーね。駅弁どお?」

言いましたが
無視しました
「ねえちゃん? かわゆい。いいねいいねだっちゃあ」
無精ひげ、鉢巻の駅弁売りのおっちゃんが
話しかけてきましたが
完璧に無視して
スマホをいじっています
新幹線に
乗りました
未希ちゃんは
面食いでした
イケメン好きでした
わがままな
仙台こまちです
遊び好きの女の子です
あたしは、都会の女の子
仙台の都会の女の子でした
東北の都会の女の子です
あー、ガチむかつく

津軽海峡の大海原に揉まれて   中島(あたるしま)省吾



いつまでも君と二人
恋い焦がれていた
彼女のために
大海原で結婚の資金を貯める
大間の青年の就職は漁師だ
カモメさんが便りを渡す
津軽海峡の海岸線は荒れていた
冷たく顔に刺さる北風の中
僕たちはそんな荒れた海原で生きている
今日は大間で漁業を再開する
君に愛をさけぶ僕は
波打ち際に津軽海峡の大潮に揉まれて
君は泣いて僕を観た

僕の彼女が心配そうに船をみおくっていた
いつまでも僕のために、僕の船に向かって
手を振っていた
危険と隣り合わせの
大海原の男は
いつまでも いつまでも
船を揺らしていた
僕は津軽海峡の男だ
君のために
僕は大海原の男になる

アートマンの唄 ~誕生~   マキ・スターフィールド



  1

人は生まれた時から
人として宇宙のなかに
存在している

すなわちアダムとイブを作った神が
人間を作る前から存在し
人の内部に常に存在している

そして神は個人個人のなかに
存在しているが
人の内部に常に存在しているのだ

わたしを導く天使アートマンは
宇宙の真理によって
わたしを存在させている

科学や宗教の力ではない
アートマンの力なのだ
生命の天使よ、永遠の人よ

  2

永遠の初めにアートマンがいた
アートマンは大天使であり、命の親である
命とは生かされている命

永遠とは初めであり、終わりである
昨日のようであり、遠い昔のことのようである
永遠はどこにあるのか? 天国にあるのか?

とにかく、旅に出なければ何もわからない
永遠の海に出なければ・・・
アートマンについていこう! 考えるのはそれからだわ


  3

アートマンとは何か?
天使たちのリーダー、神から最も愛されたもの
黄金の光によって包まれていた

彼の住む世界には7つの塔がある
土星、木星、火星、太陽、金星、水星、月と7つの惑星に
 なぞられる神殿のことだ
ヨハネの黙示録には7つの燈台と示される7つの教会があ
 る

すると、突然アートマンが警告を始める
「地球の人よ、心を開きなさい」
心を開いた人に、宇宙は助けを与えるだろう

わたしたちは一体どこの世界にいるのだろうか
まるで真理の世界にいるようだ
終わりでなく、始まりが来るのだ

  4

アートマンはさらに語り続ける
ムー大陸の頃、違った皮膚を持った人種がいた
青、赤、黄色、白、黒

海王星人よ
地球がブラックホールに飲み込まれないのは
彼らがブラックホールの力を弱めているからだ

そのあと、アトランティスのように
彼らの星は大爆発してしまった
宇宙の秘密を知ってしまったからだ

五次元エネルギー
破壊に使えば核エネルギーより強く
男を女に変え、女を男に変え、人間を動物に変え、動物を
 人間に変える

正しい目的のためにその力を使用しないと
恐ろしい時代になる
だから、正しい法とはなんだろうか

  5

アートマンよ、正しい法を教えてくれないだろうか
遠い昔、それを悟った神の息子がいた
彼は理想の世界を作ったのだ

やがて、天界からキリストが降りてきて
人間を理想世界に導こうと願い努力した
善と悪との戦いがある限り、正しい法は生まれてはこない

人は生まれては富、
または生まれては、貧しく
ある時は勝者であって、また敗者となって苦しむ

王となっても、奴隷となって
心の安らぐことはない
わたしたちは心の救われに気づいているのだろうか

  6

モーゼやイエスは、裁きの日として教えようとした
釈迦は、輪廻という法で知らせようとした
しかし、わたしたちは意識していない

心のつながりがない
そこには魂のみ
それもやがては消えていく、苦しみのままに

危ない!
危ないという言葉とともに
わたしは疲れた

地球が傾いている
地軸が傾き始めている
地球のなかのブラックホールに吸い込まれるかもしれない

ただ、覚悟を決めているわ!
どんなことが起きても、あなたについていく
覚悟を決めているわ!

突然、空間が変化して
わたしはある宇宙船の前に立っていた
だが、アートマンの姿は消えていた

「心配するな、あなたはわたしの心のなかにいる。いつか
 会うだろうが、
 今はその時ではない。宇宙船から出てくる人に導かれな
  さい」
頭のなかでアートマンの声がはっきり聞こえた
  7

しばらくして宇宙船の扉は開かれた
目の前には見知らぬ宇宙人がいた
「地球は35度傾いている」

もう地球には戻れない
覚悟を決めてついてきたけれど
ブラックホールに飲み込まれる前に宇宙船で脱出しよう

光よりも早い宇宙船
時間の波を横切って、過去へと戻っていく
また、地球の終わりに出会うことになるかもしれない

  8

同じことは繰り返される、手相のように、木の年輪のよう
 に
過去のある世界に戻るだけだ
問題が解決されない限り永遠に続くもの

地球より木星は時間が遅れているが
水星に行けば未来があると言われる
文明が生まれ、神が善人を連れて神の国を建設するそうだ

すると宇宙人は笑いながらわたしに語った
「神の国の建設は今度で終わりかもしれない
 地球の磁力が変わり、霊体は地球に縛られている」

地球は、ブラックホール星から数えて、7番目。
この7番目の地球で終わりなのかもしれない。
過去には戻れても、未来の水星には行けないのだろうか?

そうだわたしは夢を見た
地球の科学が滅んでしまうのだ
人の精神状態や知能まで折れ曲り、水星に理想の国を作れ
 ないのだ

  9

どうしても行きたい!
だって、わたしの愛する人が生きている!
水星のなかで生きている、アートマンと一緒に!

アートマンに選ばれし者だけがきっと
水星に行ける
わたしもついていかなければ二度と会えないわ!

わたしは地球へいつ来たのだろうか
断片だ ああ記憶の断片だわ
天使と呼ばれ、ある神のもとで働いていた

ある日、神の宇宙船から、地球の惑星を見つけ、
人間の男性に恋した
それを神に知られ、怒りを浴び、堕落してしまった

地球では、時間の奴隷となって
輪廻の波にのまれてしまった
ほら、記憶もなくしてしまったわ

  10

金の砂でかごを満たし
未来という光へ飛び立つ
あなたは誰なの?

絶対と相対と調和の
3つの真理が現れる時
その上で輝いているもの、それは何?

ふとアートマンの風のような両手が
わたしの肩に乗せられ そこから
わたしの乳房や子宮に伝わってくる

このあたたかさは何なのかしら?
愛されるということ―
天からの愛を受けることがどんなに幸せなことか!

もしアートマンがまたここに現れたら
死霊の世界から解放され
もう永久に地球人でいることはないのよ!

いよいよ、待ちに待った水星へと旅立つ
地球の不安さを抱えて 未知なる世界へと旅立つ、
何処へ?

僕は誰がつくった食事で生きてきたか   斗沢テルオ



十五の春 就職列車の汽笛がなると母は
今生の別れかのように僕に向って
「ちゃんと飯食(ままく)んデ!」と叫んだ

田畑をもたずに村で暮らすことは辛い
野菜は隣りからの余り物
漁のある朝は地引網からこぼれた魚を
米櫃の虫は母が小さな背を丸め潰していた

遠い日の我が家の食卓 兄弟は五人
飯台囲むと 母の座るスペースがなかった
だからという訳でもないだろうが
母はいつも暗い台所に立っていた
僕たち兄弟に母は
どんな食事をつくっていたか
すっかり記憶にない
あるのは友だちの家で見たカラフルな食卓
茶碗蒸し 卵焼き ハムにソーセージ
ご飯にふりかかった「丸美屋のりたま」
羨望は口に出さなかった
我が家の飯台は 干し菜汁に数本の鰯
春にはタニシ 秋には裏山の山菜
金のかからない自然の食材
行商の十円コロッケは盆正月気分
ご飯には味噌をこすりつけた
僕たち兄弟はみな体が小さかった
明日喰う食材もない台所で母は毎日
今日喰う食材を思案していた
僕らはきっとそんな母の
骨を食べていたに違いない

今朝の我が家の食卓 夫婦二人
「食べるの食べないの また朝ご飯抜くの」
母の時代とは比べ物にならない食卓
僕はいま 妻の食事で生きている

或る尊格が   ハラキン



或る尊格が 右手のひらを外にひらき 五指をのばし
ついに下に垂らすという印相が極まった瞬間 (ここま
では無音) 黒いスーツに濃いサングラスをかけた屈強
な男たちが ドアを打ち破って革靴の音高らかに入って
きた。なあに与願のサインに素直に反応しただけだ。古
代の おそらく密教以前と思われるサインに 気ぜわし
い外資系が「共有」のアクションで派手に応じた。また
別の尊格が 右足を上げると同時に右手を振り上げると
いう 大見得を切ったが途端 無量の衆生から掛け声が
かかり 季節外れの花火も上がった。

階段を降りる   ハラキン



階段を降りる裸婦のように 自我は無数に折り重なって
いる。半透明の残像たちを 絢爛とオーバーラップして。
その一体一体を切り離し 一体一体の自我を抽出できる
ならば たとえばPの自我はBの自我とまるで異なるだ
ろう。Zの自我はAの自我と激論しているかもしれない。
そのとき! 
数十体の自我が エゴイズムの素晴らしさを唄い出し
た! しょせん開き直りに過ぎないが。測り知れない自
我が 我が我がと さまざまに行動したり停滞している。
このような現象の結論は自我であり 最大の問題も自我
である。

金輪上の   ハラキン



金輪上の中央 すなわち宇宙の中央に須弥山を据える。
須弥山のいわば脇侍として七山がとりまく。外道はこの
山脈を真円型にするが そうではなく四角形。同心方形
としたい。山と山との間には 水路のように海がある。
須弥山の高さは 海面から上を八万由旬 メートルに換
算しておよそ五十六万キロメートルとする。我々が生き
るセンブ洲の下には 地獄がなければならない。積み木
のように重なりあう八熱地獄が基本。根底にあるべき無
間地獄を 一辺二万由旬の立方体とする。七つの地獄は
一辺五千由旬とする。亡者の真の更生のために さらに
熱地獄の門ごとに 多彩な副地獄をもうける。これらに
加えて八寒地獄を。こうした須弥山宇宙や地獄の設計は
なにも私がひとりで考えたわけでなく 数多くの先達の
設計を評価・検証したものである。さて 天界と禅定者
の世界にとりかかりたい。

天界をどこに   ハラキン



天界をどこに設けるか。先ずは須弥山の張り出し舞台の
ようなものを考えている。四層の張り出し舞台。いちば
ん上の舞台には四大王がいる。そして須弥山の頂上には
三十三天の住処を。ここの真ん中にあの帝釈天が住まう
殊勝殿を設ける。次に空中に住む天である空居天のため
に 須弥山の頂上から八万由旬上にある夜摩天を。夜摩
天の十六万由旬上に都史多天の住む天宮 さらに三十三
万由旬上に楽変化天 さらにさらに六十四万由旬上に他
化自在天の天宮を浮かばせる。以上六種の天は六欲天と
呼ばれ欲望が強く 人間より一段上の生き物として 在
世時のブッダともよく交流し 対話したらしい。最終的
には 神々の世界の上に 禅定者の世界を展開するが 
詳しくは次の機会に報告したい。

唐招提寺の金堂の   ハラキン



唐招提寺の金堂の 太い列柱を主役にした構図で 名高
い写真家は 1964年にシャッターを切った 切った
が途端 太い列柱の魂魄なのか 写真家の魂魄なのか 
いや1964年という時代の魂魄なのか ともかく魂魄
が走って 大阪府堺市金岡小学校の校庭でキャッチボー
ルをしていた頬の赤い私のそばまでやってきて しばら
くじっと佇んだあげく 何もせず消えたと聞いた。

野鳥が   ハラキン



野鳥(あくまで小鳥)がめまぐるしく恋愛している。(恋
愛だと思った。) 鳥の筋肉はとても敏捷。ハリウッド映
画のめまぐるしいカーチェイスシーンのような コマ抜
きのような二羽のチェイスが終わると 彼らは並んで!
丈の低い雑草がはびこる空き地を まさかと思ったが 
散策していた!
「小鳥は人間のように散策する」。
視線をずらせば 新緑が騒がしく乱反射する四月の樹木
の小枝に 天衣がひっかかって 人知れず踊っていた。

ブランコ   吉田定一



罵りあっている父と母
父の激しいことばに 哀しげに口を閉ざしている母

幼なごころに 母が可哀そうでならなかった

思いあまって 母の後ろから
飲みかけのコップの水を 父の罵ることばにぶっかけた

―― まあ、この子 なにをするの!

父さんに こんなことをするものではありません!
母は振り返って 酷く叱った

―― お父さんに謝りなさい!

(なぜなの? 母さん…)
幼なごころに 母の咎めることばが悲しかった

小さな胸にいっぱい涙をためて 囗を閉ざしていると
母でなく父が 黙って背中を抱きしめた

なぜか 涙が溢れた

あの時の 母の哀しみも 父の哀しみも
いまの俺の哀しみだったような気がする

(そう想って空を見上げるたび…)
いつも天の高みで 何もかも忘れたように

天から降りているブランコに
父母(ふたり)は仲よく 腰を下ろして揺れていて

なぜか ふと俺を涙ぐませる
そして 今あるいのちをひどく愛しくさせるのだ

ともし火   長谷部圭子



優しい夜の帳
降り注ぐように揺れていた
優しい夜のゆりかご
疲れた人々を いざなった
各々の家のランプ
四角い窓のあのビルも
丸い出窓のこの家も
ともし火の色は違うけれど
おだやかに 浮かんでいる
朝日にかき消されてしまうまで
そっと心に寄り添った

蚤の市   尾崎まこと



来歴のあるものたちに囲まれて
その真ん中、ただひとつ来歴なきものの如く
我はこのように座している

寄る辺ない道の途中に   下前幸一



寄る辺ない道の途中に
私が見たのは
気遣いのただ中に浮かぶ
令和のしるべと
食べ残したコンビニ弁当

なけなしの希望と
相変わらずの落胆に
寂しく浮かんだ
夕刻のアパート
繰り返す非正規の靴音

また一歩を踏み出すのは
うつむいた時代のぬめりに
思い出が汚されないように
回線の向こうに拡散する
公認の記憶に取られないように

昨日はどこに行ったのだろう
機械的なラインのリズムに煽られて
明日はどこに行くのだろう
踏みしめた足許からにじみ出てくる
行き違いの明日は

月間のシフトを回遊し
行く当てもなくただ
届かない気持ちを咀嚼しながら
そのようでしかない自分の現在を
一心になぞっている

通勤電車で対戦しよう
ハンドルネームの見知らぬ君と
うつむき加減のオンラインに
どこまでも絡め取られて
希望への掛け金を返済しよう

「助けてほしい」は中国語で何と言うの?
「とても苦しい」はハングルで何と言うの?
「どうすればいいのか分からない」は
ポルトガル語で何と言うの?
「私はやっていません」はペルシア語で何と言うの?
「お金が必要です」はネパール語で何と言うの?
「どこへ行けばいいの」はタガログ語で何と言うの?

数知れない問い合わせが
宛先を知らないまま途切れている
呼び止められない断念が
刑期のない収容に
いつまでも膝を抱えている

「もう、なにも言いたくありません」は
ヒンズー語で何と言うの?

「私は誰かと話したい」は日本語で何と言うの?

サイレント・マジョリティ   中西 衛



一つの時代がおわり 
次の時代がやってきた
目出度い 目出度い
みんな浮かれ気味だ
白い旗あり 赤い旗あり
闘争なき赤旗には疲れたか
気候もよいし 長い連休
よしひとつ裏山にでものぼって
昼寝でもするかにはならない
何処かへ行かねばなるまい

街道筋に立てば
絶え間ない車の流れ
漠とした期待 漠とした不安
僕は動物園へ巨大な象を見に行く
太い足 ながーい鼻
ひとたび大きな鼻を
びゅんと振り回せば
一国がほろぶ まことに爽快だ

気象管制官は自然災害警戒
一方大都会の下水道課員は
地下の巨大な穴の中を透視し
気候の変化に対処する
各地の電車の鉄道監視員
どれほど美しい季節でも
昼夜の別なく気をぬくことができない

人知れず咲き染めて散る山桜
新緑に飲み込まれたる過疎の村



     *サイレント・マジョリティー
      (声なき多数者 抗議行動しない保守的な一般大衆)

神様からの贈り物   今井 豊



最初の出逢いは
産みの母
命を宿し
光の世界へ

世界は広すぎて
出逢いは偶然の宝物
すてるひとあれば
ひろうひとあり
好きになるひとあれば
嫌いになるひとあり

たくさんのひとと
すれ違いながら
これだという出逢いがある

生きることの大切さ
愛することの喜び
学びを教えてくれたひと
心がふるえるほどの
愛しいひとたちとの出逢い

きっと
神様からの贈り物



      日本福祉大学福田ゼミ同窓会(一期から五期)による
      福田静夫先生の「米寿」をお祝いする会によせて

夕暮れどき   山本なおこ



夕暮れどきは どうして
こんなにも美しいのか

街全体が茜色(あかねいろ)に染まっている
(胸にきっぱり納めておこう)

カメラのシャッターをきるように
わたしはパチリと目を閉じる

(ふと神さまのことを考える)

これは神さまにしか創れない
一瞬だと

空があった   山本なおこ



空があった
嘆き苦しんでいるときも

歓び舞い上がっているときも
空があった

小鳥が吸いこまれていくように
空があった

風がそよいでいたかどうかは
おぼろげだが

たしかに…
真っ青な空があった

わたしは手をひたして
真っ青の空の頬に触れた

夕暮れの街   増田耕三



四十年ほど前のことになるが
大阪で開かれた詩の全国大会に
参加したことがあった

本会が終わり懇親会場へと移るとき
私を呼び止める人がいた

―― 三井葉子です

とその人は名乗り
間をおかずに

―― 増田耕三、わたしあなたの詩好きよ

と言った

そして首を傾けて

―― 少し甘いけどね

にっこりと笑った

そのときの私は
去って行った人が
帰って来てくれたような
錯覚に囚われていたのだったが

夕暮れの街に巻き起こった一陣の風は
私を置き去りにして
通り過ぎて行った