さて、月の澄みて候
- 著者
- 中野武志
- 叢書名
- 竹林館文庫1
- サイズ
- 文庫
- 頁
- 872ページ
- 製本
- ソフトカバー
- ISBN
- 978-4-86000-200-8 C0193
- 発行日
- 2011/02/20
- 本体価格
- 1,300円
人の舞い狂うてか
―――――――――
ある貧乏小藩の
上は大名から下は百姓町人まで
それぞれの持ち場で
心を尽くして生きた人々へのオマージュ
さまざまな死・・・
人の世の儚さと
それゆえの気高さ――
ある小藩のお家騒動をめぐって
亡霊たちが語り合う、一夜のものがたり。
心に刻まれる長編時代小説が待望の文庫化。
二段組872頁、堂々の大作!
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○
それが兵衛の心の中にゆっくりと醸成されてきたことだった。騒動の日 ―― 平井の陥った無残な、あの血みどろな努力が砕けた日、一挙に兵衛の心に襲いかかった思いとはそういうものだった。なぜ、自分が武士をやめたのか本当の理由がわかったの
だし、もうそういう争いは自分のことではない、あとに残るのは当事者としてではなく、姿のない、何者でもないものとして出来事を記してゆくこと、かつてはそれは、もの言わず死んだ石川伊織への、伊織的な者たちへの鎮魂の行為のはずであったが、いま彼にとってそれは伊織の ―― 伊織的なものの鎮魂を越えて、すべての者、生きて欲や時の運や弱さにひきずられて舞い狂うように舞い、滅んでいったすべての、敵も味方もない鎮魂とならねばならぬものと思えた。
(本文より)